企業内にストレスなどによるメンタルヘルス面の問題を抱える労働者が多くなると、業務効率の低下やミスを招きます。
また、それだけでなく問題を生じた原因が業務の過度な押し付けやパワハラなど企業側に責任があった場合、労災請求されて企業の社会的評価が低下し、業績の悪化につながるリスクが生じます。
つまり企業はストレスチェック制度を活用し労働者のストレス軽減に努め、またストレスを招くような業務上の行為が生まれないような社風を醸成する必要があります。
そこで、ストレスチェック制度の意味や内容について解説します。
ストレスチェック制度とは
厚生労働省はストレスチェック制度について
定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげることによって、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを主な目的としたもの
引用元:厚生労働省 ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等
と説明しています。
ストレスチェック制度創設の理由・背景
ストレスチェック制度は、近年精神障害の労災補償請求件数が増加していることから、法律が改正され2015年から始まりました。
厚生労働省の発表によると精神障害の労災補償請求件数は、2015年の1,515件から2020年は2,060件と5年間で約36%も上昇しました。
2020年は2,051件と前年よりわずかに減少しましたが、新型コロナウイルスの影響も考えられることから、横ばい、あるいは減少へ転じたとは2020年度だけでは判断できません。
ストレスチェック実施義務のある事業場の規模と対象労働者
ストレスチェックの実施義務が課せられている事業場の規模は、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。
ただし、企業全体で常時使用する労働者が50人以上でも、事業場単位でみたときすべての事業場で労働者が50人未満の場合は、ストレスチェックの実施義務はありません。
ただし「常時使用する労働者」とは、
①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約によって使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
引用元:厚生労働省 ストレスチェック制度導入ガイド
という要件を満たすものだとされており、正社員だけでなくアルバイト社員やパート社員も含まれる場合があります。
ストレスチェックの実施は毎年1回定期的に医師、保健師などが労働者の心理的な負担の程度を把握するために実施し、検査結果を労働基準監督署へ事業場単位で報告することが義務づけられています。
報告を怠ると50万円以下の罰金が科せられます。
次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
引用元:労働安全衛生法 第十二章 第百二十条
五 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者
なお、労働者が50人未満の事業場がストレスチェックを行う場合は、助成金の申請ができます。
ストレスチェック実施の注意点
1.対象労働者にストレスチェックの強制はできない
対象労働者にストレスチェックを受けるように強制はできません。
ただし、企業は実施目的について説明し、検査結果で不利益にならないことを周知し、検査時期などを考慮して検査を受けやすくなるように配慮して、多くの対象労働者がストレスチェックを受けやすいように努力する必要があります。
2.労働者に対する不利益な取り扱いの禁止
企業は、ストレスチェック結果や面接指導において把握した労働者の健康情報などに基づいて不利益な取り扱いをしてはいけません。
3.ストレスチェックを職場環境改善に活用
ストレスチェックの目的は、労働者のメンタル不調を単にチェックするだけではありません。
個々の労働者のメンタル不調を早めにチェックすることで未然に防止することも重要ですが、メンタル不調になる労働者が出ないような働きやすい事業場になる環境づくりも重要です。
ストレスチェックで労働者が気づいていないようなストレスへの気づきを促し、さらに検査結果の集団分析を行い、職場環境の問題点を洗い出して働きやすい職場環境づくりに生かす必要があります。
ストレスチェックを受ける労働者が多ければ多いほど分析による問題点の洗い出しや、問題点の本質を正確に把握することができます。
そのため、ストレスチェック対象外のパート社員やアルバイト社員が事業場内にいても、ストレスチェックを実施することが望ましいとされています。
ストレスチェックの具体的な実施方法
厚生労働省は、ホームページで「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」と「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」を公開しています。
これらのマニュアルには、「ストレスチェック制度の趣旨・目的」から「ストレスチェック制度の基本的な考え方」「ストレスチェック制度の実施に当たっての留意事項」「ストレスチェック制度に基づく取組の手順」「ストレスチェックの実施方法」「ストレスチェック制度の実施体制」「面接指導の実施方法」などが詳しく説明されています。
実施にあたって押さえておくべきポイントは以下です。
1.ストレスチェックに用いる調査票
ストレスチェックに使用する調査票の項目は定められていません。
「職場における仕事のストレス原因」「ストレスに対する心身の自覚症状」「職場における周囲の支援」の3領域に関する質問項目が含まれていれば質問は自由に設定できます。
「仕事のストレス原因」は仕事の作業環境、労働時間、業務量、人間関係などに関する質問です。
「心身の自覚症状」は自分の体や心にストレスが与えている状態に関する質問です。
「周囲の支援」は自分の周囲にサポートやケアをしてくれる人、頼れる人がいるかなどストレスを緩和できる可能性に関する質問です。
一般的には、厚生労働省の「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を用いて実施することが推奨されています。
他にも23項目や80項目の調査票もあります。
用意されているひな形は、そのまま使用することも、事業場で独自に項目を追加して使用することも可能です。
近年は、57項目に加えて、働きがい(モチベーションなど)、上司のマネジメント、およびハラスメントに関する項目を含む80項目の「新職業性ストレス簡易調査票」を採用する事業場が増えています。
改正労働施策総合推進法(通称、パワハラ防止法)が2020年6月(中小企業は2022年4月)から施行され、企業に防止対策が強く求められるようになったためです。
2.ストレスチェック実施者、実施事務従事者の業務
ストレスチェックを実施するには実施者と実施事務従事者が必要です。
2-1.ストレスチェック実施者とは?
ストレスチェックの実施者は、ストレスチェックを企画し、その結果を評価します。
労働安全衛生法は
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(医師等)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
引用元:労働安全衛生法 第七章 第六十六条の十(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
と定めています。
この「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」が、実施者のことです。
通常は産業医に依頼するのが一般的です。
2-2.ストレスチェック実施事務従事者とは?
ストレスチェック実施事務従事者は、実施者を補助して調査票の配布・回収・結果の通知・結果の保存などを行います。
実施事務従事者は、企業の労働者で衛生管理者、メンタルヘルス担当者、産業保健スタッフなどを任命するのが一般的です。
実施者、実施事務従事者のどちらも社内に任命できる者がいないときは、外部に委託することも可能です(最近は外部委託が主流になってきています)。
2-3.実施者や実施事務従事者にはなれない人
労働者の解雇・昇進・異動に関する権限を持つ立場の人は、実施者や実施事務従事者になれません。
3.高ストレス者の選定基準・方法
ストレスチェックは、心理的に大きなストレスを抱えている高ストレス者を把握して、必要なケアを講じることが大きな目的です。
高ストレスと判定され、本人が希望する場合は医師(産業医)による面接指導を実施しなければなりません。
面接指導とは、産業医などが面接を通じて労働者のメンタルヘルスのリスクを評価し、本人に指導を行うことです。
その結果、事業者は必要に応じて高ストレスを抱えた労働者の休職、残業禁止、時短勤務、配置転換などの措置を取らなければなりません。
高ストレス者の選定は実施者が行いますが、選定の基準・方法は実施者の提案や助言、および企業内の衛生委員会の審議などを考慮して、事業者が設定することも可能です。
どのような選定基準・方法が適切か、業務内容や職場環境などを十分に検討して決定することが必要です。
4.高ストレス者と選定された労働者からの同意申告が重要
ストレスチェックの結果は実施者から労働者にまず直接伝えられます。
そして、労働者の同意がない限り、結果を事業者に通知できません。
そのため、労働者からの同意の申告がなければ、事業者は対策ができずストレスチェック実施の意味がなくなります。
ストレスチェックを労働者の心身のケアや企業経営にマイナスにならないようにするにはチェックの意義やメリット、高ストレス者と判定されてもデメリットにならないことなどを労働者に正しく理解してもらわなければなりません。
そのためにはストレスチェック方針や衛生委員会での審議結果などを労働者に説明し、必要な情報を提供します。
まとめ
事業者は労働者のメンタルの不調を未然に防ぐ必要があり、また問題点が発見された場合は改善に努めなければなりません。
労働者にとっては、ストレスチェックを受けることでは自分が抱えているストレスに気づくきっかけにできます。
ストレスチェックを正しく実施し、活用することで労働者のストレスが減り、働きがいのある職場環境になることでモチベーションが上がり、業務の生産性の向上につながります。
ストレスチェックは義務として受け身でやむを得ず行うのではなく、生産性向上のために前向きに取り組まねばなりません。