長期的な収益成長の実現や経営の安定化に貢献するものとして「ロイヤルカスタマー」が注目を集めています。
そこで、「ロイヤルカスタマーとは?」という基本からロイヤルカスタマーが企業経営にとって重要な理由やロイヤルカスタマーを育成する方法について紹介します。
ロイヤルカスタマーとは?優良顧客との違いは?
1.ロイヤルカスタマーとは
ロイヤルカスタマーとは、
企業が提供する商品・サービスを、価格や性能・機能・信頼性などを合理的に検討して判断するより、顧客が今まで経験したことで醸成された信頼感、安心感、好感・愛着感などの感情的な面を優先して判断し、購入・利用を決定する顧客
のことです。
ロイヤルカスタマーは定期的、継続的、安定的に購入・利用するだけでなく、積極的に友人・知人に商品・サービスを推奨します。
2.ロイヤルカスタマーと優良顧客との違い
優良顧客とは、「他の顧客よりも購入・利用の頻度が高く、かつ金額も多い顧客」のことです。
ロイヤルカスタマーと似ていますが、同じではありません。
以下の点で異なります。
競合他社に乗り換える可能性が高い
優良顧客は購入・利用頻度が高く金額も多いことから、競合他社に乗り換える可能性は低いと考えられています。
しかし、優良顧客はロイヤルカスタマーと異なり、「価格や機能・性能、サービスの内容」で合理的に判断して購入・利用しているため、より魅力的な商品・サービスが他社から提供されると容易に他社に乗り換えてしまいます。
商品・サービスの推奨や良い口コミの発信頻度は多くない
優良顧客に比べてロイヤルカスタマーは、企業や商品・サービスに対する愛着・好感をもっているため、第三者に推奨や良い口コミを発信します。
一方、一定の条件のもとで購入・利用を決断している優良顧客は、ロイヤルカスタマーと比較すると第三者への推奨や良い口コミを発信する可能性は高くありません。
場合によっては、悪い口コミを発信する可能性もあります。
ロイヤルカスタマーが企業にもたらすメリット・重要性
ロイヤルカスタマーの定義と優良顧客との違いから、ロイヤルカスタマーが企業にもたらすメリット・重要性を簡単に要約すると以下の3点です。
- 売上維持 → 経営安定
- 営業コスト削減 → 経営効率化
- 新規顧客の獲得 → 売上拡大・営業コスト削減
企業によって多少の違いがありますが、ほとんどの企業では売上順に顧客を並べると、上位約2割の顧客で全売上の約8割を占めるというパレートの法則が成り立っています。
この2割の中にロイヤルカスタマー、優良顧客が含まれます。
ロイヤルカスタマーは他社に簡単に乗り換えをしないため、売上の維持・安定に大きく貢献します。
また、多額の広告宣伝費や販売促進費などの営業経費をかけなくても自社商品・サービスを常に購入・利用してくれます。
そのため、ロイヤルカスタマーの比率が高いほど経費を抑えて売上の維持・安定、および拡大が可能となります。
さらに、第三者に自社商品・サービスの推奨や良い口コミを発信してくれる可能性が高いため、新規顧客の獲得による売上拡大、および新規顧客獲得のための営業経費の削減を期待できます。
ロイヤルカスタマーが経営の効率化に貢献することを示す法則として「1対5の法則」と「5対25の法則」があります。
「1対5の法則」は、新規顧客を探して販売するコストは、既存顧客を大切にして販売するコストの5倍かかることを示しています。
「5対25の法則」は、顧客を大切にし、顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善されることを示しています。
なお、これらは新規顧客の獲得のための努力や経費を否定するものではありません。
新規顧客の獲得は常に重要な経営課題の1つです。
ロイヤルカスタマーを育成する方法
ロイヤルカスタマーを育成する方法(ステップ)について紹介します。
ステップ1.ロイヤルカスタマーの設定と顧客分析
業種・業態によって、また同じ業種・業態であっても企業ごとに理想とする、あるいは目的とするロイヤルカスタマーの定義は異なります。
そのため、自社にとってどのような顧客を重視しなければならないのかを明確に定義します。
そのためには自社の顧客分析が必要です。
自社の顧客の特性を知らないでロイヤルカスタマーの育成はできません。
分析は、顧客に関する各種のデータや必要に応じて収集したデータを適切な分析手法を用いて行います。
顧客に関するデータには、以下のようなものがあります。
- 購入・利用の頻度・価格帯・理由・時期
- 顧客の属性(個人客であれば性別、年齢、住所など、法人であれば企業規模、業種・業態など)
- 顧客への広告宣伝・販促活動状況
また、主な分析手法には以下のようなものがあります。
- RFM分析
- CPM分析
- デシル分析
- CTB分析
- トレンド分析
- セグメンテーション分析
顧客分析の際に押さえておきたい重要なポイントは、どのような顧客が何をきっかけに、どういう理由で、自社の商品・サービスを選び、結果として何に満足し、何が不満足であったかということを正確・詳細に知ることです。
ここが不明確だと顧客分析の精度が低下します。
データが不足しているならば訪問調査やアンケート調査、SNSなどの口コミデータを収集することも必要です。
また、複数のマーケットでビジネスを展開している場合は、そのマーケットの成長性を把握しないと経営効率や売上・利益の拡大を目指す顧客分析としては方向性を誤る可能性があります。
ステップ2.顧客満足度を上げるためのマーケティングの実施
自社が設定したロイヤルカスタマーにしたい顧客に対して、顧客満足度を高めるための施策を実施します。
そのためのマーケティング手法には、
- CRM(顧客関係管理:Customer Relationship Management)
- CEM(カスタマーエクスペリエンス管理:Customer Experience Management)
- One to One マーケティング
などがあります。
具体的な手法は業種や業態、競合との関係、顧客との接点の違いなどで異なります。
一般化された手法として、よく以下の手法が実施されています。
- 会員カードを発行して買い物の金額によって特典を付与
- お得な商品を紹介するメールの送信
- 来店時や購入・利用時にしかるべき職位者によるあいさつ など
これらの施策はしないより、したほうが他社への対抗策としては有効です。
しかし、ただ単に実施してもロイヤルカスタマーにするまでの顧客満足を与えることは困難です。
なぜなら顧客は「顧客が優遇されるのは当然」と考えているからです。
そのため、「優遇されている」というレベルの顧客満足を与えるだけでは効果がありません。
顧客に「ここまでしてくれるの!」という感動を与えられるような施策を実施することが重要です。
ステップ3.顧客ロイヤルティの測定と施策の改善
施策の実施によって顧客ロイヤルティが上がっているかどうかを測定・検証し、よりロイヤルカスタマーを増やせるように施策を改善していきます。
ロイヤルカスタマーが増えているかどうかは、以下の数値などを確認することで分かります。
なお、業種・業態によっては利用できない数値があります。
適切な数値を用いて結果を検証してください。
- リピート率のアップと解約率のダウン傾向
- 単位期間あたりの顧客金額、または顧客生涯価値(LTV)の増加傾向
- 良い口コミの拡散数、および紹介客が新規顧客に占める比率の増加傾向
- RFM分析による優良顧客の増加傾向
- NPS(ネットプロモータースコア)®の測定結果のアップ傾向
上記の中で、「NPS®の測定結果のアップ傾向」以外は良い傾向が出ていても、必ずしもロイヤルカスタマーの増加に直結しません。
理由を、リピート率のアップ傾向を例にして考えます。
A店では顧客のリピート率がアップ傾向にありました。
しかしこれは、ある商品を売っているお店が、そのエリアではたまたまA店だけだったからでした。
その後近所に、この商品を取り扱うお店が増え始めると、A店のリピート率はどんどん下がっていきました。
顧客にとって「より近所にある」お店ができて、乗り換えられてしまったのです。
最も簡単に顧客ロイヤルティが高いかどうかを確認できるのは、NPS®の測定です。
NPS®とは、「Net Promoter Score®」のことで、顧客に対して「あなたは、この商品・サービスを友人や知人、同僚に薦めたいと思いますか?」という趣旨の質問などを複数行って、顧客に商品・サービスを「0~10点」の間で採点してもらいます。
その結果が、「6点以下は批判者」「7~8点は中立者」「9~10点は推奨者」に分類して、顧客ロイヤルティの程度を判断する方法です。
さらに、「点数をつけた」理由もあわせて回答してもらうことで、顧客ロイヤルティを高めるためのヒントが得られます。
顧客ロイヤルティが高いのは「推奨者」で、この結果と他の結果と合わせることで、自社にとって重要視すべきロイヤルカスタマーが分かります。
NPS®については、こちらの記事もご確認ください。
CSAT・NPS®は顧客満足度を測る重要な指標!その意味と使い分けの方法
NPS🄬は顧客ロイヤルティの向上で企業業績を効果的に伸ばすために必要な手法
【まとめ】ロイヤルカスタマーは経営効率化・安定化に不可欠
企業を取り巻く環境が複雑化し、企業間競合が激化する中、顧客の価値観も多様化し、変化のスピードも速くなってきており、経営状況が急激に悪化する可能性が高くなっています。
しかし、顧客の多くをロイヤルカスタマーとして囲い込みできれば、経営の効率化・安定化を図れます。
ただし顧客対応を1度でも誤ると、ロイヤルカスタマーであっても簡単に離脱する可能性があります。
そのため、顧客からの不満や問い合わせに対応するカスタマーサポート部門はロイヤルカスタマーの育成に重要な役割を果たします。
自社で質の高いサポート対応ができなければ、経験の豊富な外部業者に委託するのも施策の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。